「人間関係」は看護師の退職理由No.1
看護師の退職理由として、常に上位にランクインするのが「人間関係」です。医師との上下関係、先輩看護師からの厳しい指導、後輩の育成負担、患者やその家族からの感情的な対応──看護師は多方面の対人関係のストレスに晒されています。
しかし、コミュニケーションは「性格」ではなく「スキル」です。つまり、学び、練習することで改善できます。この記事では、看護師の職場で実践できるコミュニケーション改善のテクニックを、具体的な場面ごとに解説します。
医師とのコミュニケーション:SBAR報告法
SBARとは
医師への報告で「何を言いたいのか分からない」「要点がまとまらない」と感じたことはありませんか? SBAR(エスバー)は、医療現場で広く使われている報告フレームワークです。
- S(Situation):状況 ─ 今何が起きているか
- B(Background):背景 ─ 患者の臨床経過
- A(Assessment):評価 ─ あなたのアセスメント
- R(Recommendation):提案 ─ どうしてほしいか
SBARの実践例
S:「3号室の田中さんの血圧が80/50に低下しています」
B:「今朝から微熱があり、午前中に嘔吐が2回ありました。昨日の採血ではCRP 5.2でした」
A:「脱水または感染症の悪化の可能性があると考えます」
R:「輸液の追加と採血のオーダーをお願いできますか」
SBARを使うことで、医師に必要な情報が簡潔に伝わり、的確な指示を受けやすくなります。「何を報告すればいいか分からない」という不安が軽減され、医師との信頼関係構築にもつながります。
医師に意見を伝えるときのコツ
- 「確認させてください」という前置き:対立ではなく確認のスタンスで伝える
- データで話す:主観ではなく、バイタルサインや検査値などの客観的データを根拠に
- タイミングを選ぶ:緊急でない場合は、医師が余裕のあるタイミングを選ぶ
- 提案型で伝える:「これは違うと思います」ではなく「こちらの方法も検討いただけませんか」
先輩看護師との関係改善
「前にも言ったよね」への対処法
先輩からの厳しい指導は、看護師の成長に不可欠ですが、精神的な負担も大きいものです。「前にも言ったよね」と言われたとき、萎縮するのではなく、以下のように対処しましょう。
- まず謝る(防衛反応を抑える):「すみません、確認不足でした」
- 具体的に確認する:「もう一度教えていただけますか。次回は必ずメモして実践します」
- 実際にメモを取る:その場でメモを取る姿勢を見せることが信頼構築につながる
- 後で感謝を伝える:「先日教えていただいた方法、うまくいきました。ありがとうございます」
苦手な先輩との距離感
すべての先輩と仲良くなる必要はありません。業務上の最低限のコミュニケーションを丁寧に行い、プライベートな距離感は適切に保ちましょう。「仕事上のパートナー」として割り切ることも、プロフェッショナルな態度の一つです。
アサーティブコミュニケーション:自分も相手も尊重する伝え方
アサーティブとは
アサーティブコミュニケーションとは、「自分の意見や感情を、相手を尊重しながら率直に伝える」コミュニケーション方法です。看護師に多い「言いたいことを我慢する(受動的)」でも、「感情的にぶつける(攻撃的)」でもない、第三の選択肢です。
DESC法:4ステップで伝える
- D(Describe)描写:客観的な事実を述べる
- E(Express)表現:自分の気持ちや考えを伝える
- S(Specify)提案:具体的な解決策を提示する
- C(Choose)選択:相手に選択の余地を与える
DESC法の実践例:残業を頼まれた場合
D:「今日、すでに2時間の残業をしています」
E:「これ以上残ると、明日の日勤に支障が出そうで心配です」
S:「急ぎでなければ、明日の日勤帯で対応させてもらえないでしょうか」
C:「もし今日中に必要であれば、他のスタッフと分担する方法もあると思います」
後輩指導のコミュニケーション
「教え方」を変えると後輩は育つ
後輩の指導がストレスになっている中堅看護師も多いはず。効果的な指導のポイントは以下の通りです。
- 「見て覚えて」はNG:手順の「なぜ」を説明することで、応用力が育つ
- 良いところを先に伝える:指摘の前にポジティブフィードバックを。「点滴の手技はスムーズでしたね。次は滴下速度の確認も意識してみよう」
- 質問しやすい雰囲気を作る:「分からないことがあったらいつでも聞いてね」と明言する
- 失敗を責めず、仕組みで解決する:「次はこのチェックリストを使ってみよう」
患者・家族とのコミュニケーション
クレーム対応の基本フレーム
患者や家族からのクレームは、感情的になりがちな場面です。以下のフレームで対応しましょう。
- 傾聴する:まず最後まで話を聞く。途中で弁解しない
- 共感する:「ご不安なお気持ちはよく分かります」
- 事実を確認する:「状況を正確に把握したいので、教えていただけますか」
- 対応を伝える:「確認して、○○時までにお伝えします」
- フォローアップする:必ず約束した期限内に回答する
家族への病状説明のサポート
医師の説明後に家族から「よく分からなかった」と相談されることは日常的にあります。このとき、看護師の役割は「通訳」です。医学用語を分かりやすい言葉に置き換え、家族の理解度を確認しながら説明を補足しましょう。
チーム医療でのコミュニケーション
多職種カンファレンスでの発言
カンファレンスで発言するのが苦手という看護師は多いですが、看護師は24時間患者の傍にいる最も身近な医療者です。看護師だからこそ気づく情報(患者の表情の変化、夜間の不安、家族の懸念など)は、チーム医療において非常に価値があります。
- 事前準備:伝えたいポイントを3つまでに絞ってメモしておく
- 「看護師の立場から」の前置き:「看護師の観察からお伝えすると...」で発言の正当性を示す
- 簡潔に話す:カンファレンスの場では結論から話す
コミュニケーションの限界:環境を変える選択
コミュニケーションスキルを磨いても、職場の「文化」自体に問題がある場合は、個人の努力だけでは改善が難しいことがあります。
- パワハラが横行し、管理者が対応しない職場
- 特定の派閥による排他的な雰囲気がある職場
- 意見を言うこと自体が許されない空気がある職場
- インシデントを個人の責任として追及する文化がある職場
このような場合は、コミュニケーションの問題ではなく、職場環境の問題です。環境を変えること(転職)は、決して「逃げ」ではありません。自分が健全に働ける環境を選ぶことは、プロフェッショナルとして当然の判断です。
まとめ:コミュニケーションはスキル、環境は選べる
この記事で紹介したテクニックは、どれも今日から実践できるものです。まずは一つ、「これならできそう」と思ったものから試してみてください。SBAR報告法、DESC法、ポジティブフィードバック──どれか一つでも習慣にすれば、職場のコミュニケーションは確実に変わります。
ただし、どんなにスキルを磨いても変わらない環境もあります。そのときは、環境を変える勇気を持ちましょう。あなたのコミュニケーション力を正当に評価してくれる職場は、必ずあります。